型抜き印刷所 ミスタートムソン

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2016.10.10/印刷

印刷の歴史と特質について

Hello,型抜き印刷所ミスタートムソンです。
 
当店は型抜き印刷専門の印刷所です。
型抜き印刷専門の印刷所に至るまでに、印刷の歴史と、当店がある北海道における特質を考察してみたことのまとめです。
もし内容に誤りがありましたらご容赦ください。
 


 

印刷の起源

印刷の起源は、中国で随時代(581‐618年)に始まった木版印刷であると考えられている。木版印刷とは、木の板を彫りバレンで摺る「版画」と同じ印刷方法である。しかし「そもそも印刷の定義が問題」(注1)であり、印章や拓本(石刷り)を印刷の源流と考えると、紀元前数千年にまでさかのぼることになる。
印刷とは、「原稿」をもとに「版」をつくり、それに「インク」を塗って、紙などの「被印刷体」に「印圧」を与えて写しとることである。これらを印刷の五大要素といい、版が木版からアルミ版に、印圧がバレンから印刷機になるなど、各要素の内容がそれぞれ複雑多様になっているだけで、根本のところは変わっていない。
十五世紀半ばのヨーロッパで、ヨハネス・グーテンベルクによって活版印刷術が発明される。活字の組み合わせによる印刷技術そのものの起源は中国が早いが、グーテンベルクが成功したのは、何度でも使用することのできるアルファベット一本ごとの金属の活字の鋳造と、それを用いた書物(聖書)の大量生産であった。これにより「特定階級のものだった読み書き能力が大衆レベルに広がり」(注2)、「宗教改革、科学革命、市民革命、産業革命へと発展し」(注3)、人類の情報革命の先駆けとなった。
この活版印刷技術は、十九世紀はじめに至るまでグーテンベルクが発明したものとほとんど不変のままだった。

 

日本における印刷の歴史

年号の特定できる世界最古の木版印刷物は、日本で奈良時代に印刷された「百万塔陀羅尼経」である。日本でも古くから長きにわたり、木版印刷が印刷の主流であった。
十六世紀になると日本にも活版印刷術が渡来する。しかし、アルファベットと比べて文字の数が多い日本では、活字の数も膨大になるため効率的ではなく、活版印刷はあまり定着しなかた。しかし、そのことによって江戸時代には多色刷りの浮世絵など、木版印刷が世界でも類をみないほど発展し、江戸の文化を支えた。
明治時代になると日本でもようやく活版印刷が普及する。それには紙型の発明といった技術革新も要因であったが、明治新政府が新しい国づくりのための布達を、広く日本中に・速く・正確に行うための印刷方法を必要としたためである。活版印刷の普及は新聞の日刊発行を可能にし、それによってジャーナリズムが生まれ、日本の近代政治を拓く力にもなった。

 

北海道における印刷の歴史

明治2年に北海道に開拓使が置かれると、開拓使本庁のあった札幌では、その布達などを印刷する必要から、明治9年に札幌活版所が設置される。官庁である開拓使関係で操業をはじめた印刷所は、やがて民間に払い下げられるが、「北海道においては、政治、経済、社会のあり方に官の主導する要素が大きかった」(注4)ことと、当時はまだ商業活動が成熟していなかったため、北海道の印刷業は官公庁の仕事が主であった。北海道の開発が進むにつれて印刷需要も拡大・多様化し、北海道は紙の生産地という強みもあって、印刷所は全道に拡がっていった。
昭和の戦時体制下では、言論統制と資材の不足により印刷所の縮小・閉鎖を余儀なくされる。終戦による言論出版の自由は、文字に飢えていた人々が新しい知識を印刷物に求め、印刷すれば何でも売れるという状況を生み、印刷業は再び活況を取り戻す。その後の高度経済成長とともに印刷需要も拡大していった。印刷技術も進化し続け、高速化・高品質化・自動化していったが、同時に大手と中小、中央と地方の格差を生むことにもなった。

 

印刷業の今後のあり方

印刷業は主に、書籍や雑誌などを印刷する「出版印刷」と、カタログやチラシなどを印刷する「商業印刷」に分かれる。出版印刷は出版社の所在地と同じく東京に集中しているため、地方では商業印刷がほとんどである。そのため地方の印刷業は、地方経済の景気状況に左右されやすい傾向がある。インターネットの普及や企業の広告宣伝費の縮小により商業印刷の需要は低下している。不況が長く続く北海道ではこの傾向が顕著である。印刷はインターネットとの比較において、「広く・速く・安く」といった情報伝達の手段、メディアとしての優位性を失いつつある。また「エコではないイメージ」を持たれてしまってもいる。これらのことは特に商業印刷にとって致命的である。
印刷は古くから、政治・経済・宗教・思想・芸術などあらゆる人間活動に貢献してきた。現在では、印刷の製版技術でコンピュータのICが製造され、印刷の組版技術によって電子書籍を読みやすくするなど、印刷技術は印刷以外の産業分野に広く用いられている。しかしあまりに人間生活に浸透し密着した存在になったために、意識されなくなってしまった。
印刷業の出荷額は減少傾向にあるが、印刷技術の応用は拡大している。印刷企業が存続するためには、「印刷物を売る」のではなく「印刷によって得られる付加価値を売る」といった、印刷が長い歴史の中で担ってきた役割を見直す必要がある。印刷業は受注産業であり、中小の印刷企業は下請けであることが多く、内向きになってしまっているように思う。印刷技術を慣れた仕事に留めるのではなく、それを用いてどのように社会と関わるのかを模索し続けなければならない。

 


 

(注1)鈴木敏夫『プレ・グーテンベルク時代』朝日新聞社 1976年 129頁
(注2)高宮利行『グーテンベルクの謎』岩波書店 1998年 5頁
(注3)吉島重朝『印刷よもやま話』印刷朝日会 2008年 29頁
(注4)北海道の出版文化史編集委員会『北海道の出版文化史』北海道出版企画センター 2008年 12頁

 

 〈参考文献〉
鈴木敏夫『プレ・グーテンベルク時代』朝日新聞社 1976年
高宮利行『グーテンベルクの謎』岩波書店 1998年
ジョン・マン『グーテンベルクの時代』原書房 2006年
吉島重朝『印刷よもやま話』印刷朝日会 2008年
尾鍋史彦『紙と印刷の文化録』印刷学会出版部 2012年
中根勝『日本印刷技術史』八木書房 1999年
北海道印刷工業組合広報委員会『北海道印刷のあゆみ』北海道印刷工業組合 1973年
北海道の出版文化史編集委員会『北海道の出版文化史』北海道出版企画センター 2008年